2.運動系疾患

2.運動系疾患

1)腰痛症

 
 
 腰痛
原因  椎間板ヘルニア等の原因のはっきりしたもの以外に、心因的要因や社会的要因が加わり、腰痛が三か月以上続くものを慢性腰痛症といい、鍼灸施術の対象となります。主に椎間板性腰痛症、椎間関節性腰痛症、筋筋膜性腰痛症、などが引き金となって生じると考えられています。椎間板の周辺はコラーゲン繊維の軟骨で出来ており加齢、荷重ストレスで退行、劣化し圧迫され、そこから出る神経が圧迫され、対応した筋肉に鈍痛を起こします。また、筋筋膜性腰痛症の後遺症では、対応する筋肉に荷重ストレスを加わるとその筋肉そのものに疲労物質(乳酸)や痛み物質(ヒスタミン)が蓄積する為、鈍痛を起こすようになります。
症状  椎間板が由来の腰痛症では、障害を起こした椎間板から出る神経が支配する(同一高位の)腰の筋肉に鈍痛、疲労感、脱力感が起こり、更にその神経に対応した臀部・下肢の部分にも痛み(関連痛)が現れます。 また、筋筋膜性腰痛が由来の腰痛症では、障害を受けた筋肉そのもに鈍痛が生じるとともに、周辺の協同筋にも痛みが発生します。
施術   椎間板が由来の腰痛症では、同一高位の脊髄神経の後枝の支配領域にあたる傍脊柱部の多裂筋、回旋筋、最長筋,腸肋筋への刺鍼施術、更に関連痛がでている領域への刺鍼施術が有効です。また、筋筋膜性腰痛が由来の腰痛症では、障害筋の障害部、起始・停止部、並びに障害筋の協同筋への施術を行います。また障害筋の拮抗筋の施術も施術効果を高めます。更に自宅でできる適切なリハビリ腰痛体操を指導し、更なる改善をはかっています。

 %e8%85%b0%e9%83%a8%e3%81%ae%e8%a1%a8%e9%9d%a2%e7%ad%8b%e8%82%89 %e8%a7%a3%e5%89%96%e5%9b%b3%e8%a3%9c%e8%b6%b3011%e9%8d%bc%e7%81%b8h009

腰部の筋肉     腰部を支配する神経経路  典型的な腰痛発生部位

%e6%85%a2%e6%80%a7%e8%85%b0%e7%97%9b%e6%96%bd%e8%a1%93%e3%81%8e%e3%81%a3%e3%81%8f%e3%82%8a%e8%85%b0%e6%96%bd%e8%a1%93%e5%9b%b3%e6%85%a2%e6%80%a7%e8%85%b0%e7%97%9b%e6%96%bd%e8%a1%93

慢性腰痛の施術点   ぎっくり腰の施術点   座骨神経痛の施術点

 
 
 座骨神経痛
原因 座骨神経や座骨神経根の圧迫、椎間板ヘルニア、梨状筋症候群、腰部脊柱管狭窄症などが原因でおこります。 
症状 坐骨神経が走行している部位、即ち、腰部、臀部、大腿後面、下腿後外側及び足外側で痛みを発生します。1)病変が椎間(孔)にある疾患の場合:発病は急性の場合が多く、ナイフで刺されたような痛みで夜間にも痛みがあります。また、2)病変が椎間外にある疾患の場合:発病は慢性的で、疼痛部位は坐骨神経に沿って発生し、坐骨神経穴近辺の大殿筋や梨状筋、大転子付近、に圧痛が発生し、特に腓腹筋(ふくらはぎ)筋腹の圧痛が強いことが多いです。
施術 病変が2)の椎間外にある疾患の場合の方が施術の効果が良好で、大殿筋や梨状筋、大転子付近、腓腹筋(ふくらはぎ)筋腹に低周波電気鍼を施術すことにより、早期の回復が図れています。また1)の病変が椎間(孔)にある疾患の場合は、2)の場合と同様に坐骨神経の走行する筋肉に施術するとともに、腰部にも低周波電気鍼の施術を行うことで有効な効果が得られています。

 %e5%9d%90%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%b5%8c%e8%b7%af%e5%9d%90%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%9a%ae%e8%86%9a%e6%94%af%e9%85%8d%e8%85%93%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%9a%ae%e8%86%9a%e6%94%af%e9%85%8d%e9%8d%bc%e7%81%b8%e5%8a%b9%e6%9e%9c010

坐骨神経の走行経路     座骨神経の皮膚支配領域    坐骨神経痛の施術点

 
 
 ぎっくり腰
原因 筋筋膜性腰痛や椎間板ヘルニアの初期症状に現れることが多く、不適切な姿勢や力の入れ方で、腰部の筋、腱など軟部組織が損傷されることにより引き起こされる。
症状 腰部の両側や片側に損傷が起こった時、すぐに激しい痛みが発生し、損傷時に物が割れるような感じを体験し、体位変換ができなくなることが多いです。持続的な痛みで、咳嗽やくしゃみなど腹部に力を加えると痛みは加重されます。腸骨稜上方の腱起始部や棘突起の両側に圧痛点がみられる。背部の筋肉を伸ばすとき痛みを発生するため、前かがみに腰を曲げることができず、立って歩くのが難しい場合も多いです。
施術 腸骨稜上方の腱起始部や棘突起両側の圧痛点や近傍の経穴(命門、志室、大腸兪)に刺鍼し、低周波電気鍼の施術を行うとともに、足背面の委中、承山への施術も有効です。 また、背筋の伸展で過敏な神経部や炎症部への血流増加が図られるため、背部筋肉の伸展も症状改善に有効です。

%e3%81%8e%e3%81%a3%e3%81%8f%e3%82%8a%e8%85%b0%e8%a7%a3%e5%89%96%e8%a3%9c%e8%b6%b3%e5%9b%b3%e9%8d%bc%e7%81%b8h032%e3%81%8e%e3%81%a3%e3%81%8f%e3%82%8a%e8%85%b0%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%ac%e3%83%83%e3%83%81

ぎっくり腰多発腰部の表面神経  治療の施術点         背部筋肉の伸展

2)上肢・肩の疾患

 
 
 五十・四十肩
原因 加齢による上腕二頭筋長頭腱、腱板の退行性変化、また短頭の筋や腱の炎症、滑液包炎、靭帯炎など軟部組織の炎症が起こることで、肩関節の運動制限と疼痛が起こります。四十歳以上の加齢で起こることが多いため、四十・五十肩とよばれています。
症状 肩部の痛みやだるさ、また肩関節動作が制限され強直などの症状がみられます。その痛みは夜間になると症状が重くなり、肩関節の活動が制限され、特に外転位や外旋位(髪結い、帯締め動作)時に特に痛みを発します。病歴は数か月から1~2年に及ぶことがあるます。
施術 1)上腕二頭筋長頭腱の滑動障害に対しては、上腕二頭筋の長頭腱、並びに筋腹に刺針し、低周波電気鍼施術を行います。この疾患は比較的早く治癒する事が多いです。 また2)腱板の滑動障害に対しては、腱板や構成する筋肉の経穴(肩稜、巨骨、天枢、翳風、肩貞)に刺鍼し、低周波電気鍼施術を行います。 いずれの疾患も、鍼灸施術で痛みが治まり、肩関節の可動域が広がる事により、その後のリハビリで自然治癒(完全治癒)する事が多いです。

  %e8%82%a9%e9%96%a2%e7%af%80%e8%a7%a3%e5%89%96%e5%9b%b3%e9%8d%bc%e7%81%b8h004%e9%8d%bc%e7%81%b8h003

    五十/四十肩の炎症発生部位        五十/四十肩の施術治療点
  
 
 肩こり
原因  持続的な精神的ストレス、前かがみの姿勢での長時間のデスクワーク、パソコン・読書による眼精疲労、運動不足、内臓疾患、更年期障害などが原因で、肩背部の筋肉群が持続的に緊張し、局所の血液循環が低下しそこに疲労物質が蓄積することにより起こります。
症状  後頚部、肩部、肩甲部周辺の不快感や頭重感、筋緊張感が起こり、またひどくなると頭痛、腕のしびれ、倦怠感、吐き気、集中力の低下など、様々な症状が起こります。
施術 僧帽筋、胸鎖乳突筋、頭板状筋、頭半棘筋,肩甲挙筋、棘上筋、棘下筋の圧痛点の刺鍼し、低周波電気治療を施します。また主な経穴としては、肩井、頬車、天柱、肩中兪、肩外兪を施術します。更に、肩のストレッチ&体操を指導、実施頂くことで治療効果を上げています。

%e8%82%a9%e3%81%93%e3%82%8a%e8%a7%a3%e5%89%96%e8%a3%9c%e8%b6%b3%e5%9b%b3%e9%8d%bc%e7%81%b8h020img767%e8%82%a9%e3%81%93%e3%82%8a%e6%b2%bb%e7%99%82%e7%a9%b4

肩こり発生部位の筋肉と神経   肩こり発生の機序    肩こり施術治療点

3)上肢の神経麻痺

 
 
 橈骨神経麻痺(下垂症)
原因  この神経は、第5~8頚神経から発して、上腕骨の橈骨神経溝から上腕を走行し腕橈骨筋と上腕骨の間を通って肘関節の外側に達し、浅枝と深枝に別れた後に手の関節の外側を走行します(下図参照)。この走行経路上で、筋肉、骨の圧迫を受けたり自らの損傷によって神経の興奮が起こり、感覚神経系ではしびれ・痛みを発生し、運動神経系では機能障害、麻痺が起こります。
症状  橈骨神経の感覚(知覚)支配領域は、下図に示すように上腕並びに前腕の外側・後面、また手背特に親指と人差し指の知覚を支配するため、これに沿ってしびれ・痛みが起こります。また運動神経系では、親指の伸展・外転が阻害されることが多く、更に、肩関節脱臼、上腕骨骨折、神経の直接損傷など甚だしくは”下垂手”等の機能障害・麻痺がおこります(添付下図参照)。
施術  治療施術点としては、橈骨神経溝(経穴では消楽)並びに上腕二頭筋腱の外側の圧痛点(経穴では曲池)を中心に刺鍼します。低周波電気鍼の併用が効果的です。特に、下垂手の場合には更に上腕と前腕の伸筋の後柔捻・リハビリを施し回復を早めます。

  %e6%a9%88%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%b5%8c%e8%b7%af%e6%a9%88%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%9a%ae%e8%86%9a%e6%94%af%e9%85%8dimg768%e6%a9%88%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e9%ba%bb%e7%97%ba%e6%b2%bb%e7%99%82%e7%a9%b4

橈骨神経の経路   橈骨神経皮膚支配領域   橈骨神経疾患の施術治療点

 
 
 正中神経麻痺
原因  この神経は、第6~8頸神経から発して、腋窩動脈の前面から上腕前面の中央を通り肘窩、円回内筋の両頭を通り抜けて前腕に達し、手根管を通り手掌中央を走行します(下図参照)。この走行経路上で、筋肉、骨の圧迫を受けたり自らの損傷によって神経の興奮が起こり、感覚神経系ではしびれ・痛みを発生し、運動神経系では機能障害、麻痺が起こります。
症状  正中神経は、下図に示すように上腕並びに前腕の中央全面、また手掌の第2~4指の知覚を支配しますが、特に圧迫が受けやすい円回内筋並びに手根管近傍でしびれ・痛みが起こりやすいです。また、この時に手掌の第2~4指に拘縮・しびれを起こします。また、甚だしい場合には”猿手”等の機能障害・麻痺がおこります(添付下図参照)。
施術 治療施術点としては、円回内筋の治療では筋腹の硬結・圧痛点を、また手根管部の治療では舟状骨と豆状骨の間(経穴では大陵)を主に刺鍼します。低周波電気鍼の併用が効果的です。特に、猿手の場合には更に母指球筋の後柔捻・リハビリを施し回復を早めます。

 %e6%ad%a3%e4%b8%ad%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%b5%8c%e8%b7%af%e6%ad%a3%e4%b8%ad%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%9a%ae%e8%86%9a%e6%94%af%e9%85%8dimg769%e6%ad%a3%e4%b8%ad%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e9%ba%bb%e7%97%ba%e6%b2%bb%e7%99%82%e7%a9%b4

正中神経の経路   正中神経の手領域支配領域   正中神経疾患の施術治療点

 
 
 尺骨神経麻痺
原因  この神経は、第8頸神経と第1胸神経から発して、上腕二頭筋溝を通り肘部管を通って前腕の内側(尺側)に達し、尺側主根屈筋の下を通り、手掌内側(尺側)を走行します(下図参照)。この走行経路上で、筋肉、骨の圧迫を受けたり自らの損傷によって神経の興奮が起こり、感覚神経系ではしびれ・痛みを発生し、運動神経系では機能障害、麻痺が起こります。
症状 尺骨神経は、下図に示すように上腕並びに前腕の内側(尺側)、また手掌の第4~5指の知覚を支配しますが、特に圧迫が受けやすい肘部管並びに尺屈神経管(ギオン管)近傍で障害が起こり、しびれ・痛みが起こりやすいです。また、この時に手掌の第4~5指に拘縮・しびれを起こします。また、甚だしい場合には”鷲手”等の機能障害・麻痺がおこります(添付下図参照)。
施術  治療施術点としては、肘部管部の治療では尺側頭部の圧痛点を、また尺屈神経管(ギオン管)部の治療では豆状骨と有鈎骨の間の圧痛点を主に刺鍼します。低周波電気鍼の併用が効果的です。特に、鷲手の場合には更に骨間筋および虫様筋の後柔捻・リハビリを施し回復を早めます。

%e5%b0%ba%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%b5%8c%e8%b7%af%e5%b0%ba%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e7%9a%ae%e8%86%9a%e6%94%af%e9%85%8dimg770%e5%b0%ba%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e9%ba%bb%e7%97%ba%e6%b2%bb%e7%99%82%e7%a9%b4

尺骨神経の経路  尺骨神経の手領域支配領域  尺骨神経疾患の施術治療点

 

上肢の神経疾患による手の麻痺(典型例)

img771%e6%a9%88%e9%aa%a8%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e9%ba%bb%e7%97%baimg772%e6%ad%a3%e4%b8%ad%e7%a5%9e%e7%b5%8c%e9%ba%bb%e7%97%ba%e5%b0%ba%e9%aa%a8%e9%b7%b2%e6%89%8b